松本一成
マツモトカズナリ
1975年5月9日生まれ、
35歳、A型。S級1班に在
籍する競輪選手。
パワフルなレースが持ち味
で、打鐘からドンドン出てい
く仕掛けが多い。
1996年4月に立川競輪場でデビューしたが、決勝を外し、続く2戦目が弥彦競輪場だった。4月28日、第3レースのB級予選。スタートで前に位置した彼は、残り2周で別の選手たちが上がってくると、それらを全部前に入れて、9車立ての8番手まで下がった。

鐘が鳴って、残り1周半。そこからだ。彼が踏み始めたのは。まだフォームだって、体つきだって、プロとはいえない彼は、自分にどのくらいの力があるかも分からず、力任せに黙々と前へ踏んでいった。バック前で前団をまくり切る。結果は2着だったが、3着以下は4車身も離れていた。

松本一成といえば、僕はあの競走を思い出す。力を出し惜しみしない、愚直なまでの真っ向勝負。

競輪という競技はほとんどの選手が先行選手としてデビューし、脚質や考え方から、何でもできる自在型や、人の後ろを走る追い込み型に転身していくのだが、彼はデビューしてから14年経った今でも先行スタイルを貫く。

「今さら変えられないでしょ」と言い、「将来は分からないけど、今は先行型から変わる気はない」とつけ加えた。

競走のことを聞いても多くを語らない彼だが、競輪の面白さとは?には饒舌になってくれた。

「はまれば、これほど面白いものはないと思う。人間がやっていますから。一般社会でもいろいろな人がいますよね。競輪選手も同じで、さまざまな人がいます。それが競走になって、いろいろな駆け引きをしながら走る。人間社会の凝縮したものが見られます」。

彼が言うなら、見にいこうじゃないか、競輪を。